12「突然リーダーに」
2年くらいたったころだろうか。ある日、三岩班長からこう言われた。
リーダーになってくれ。
当初、自分を入れて4人ほどだった塗装職場は、そのころには5.6人くらいだったと思う。
三岩班長の下とはいえ、自分よりも塗装の経験がある年上の先輩職人の上に立つことになるのだ。
状況はよくわかる。先輩職人たちは、いずれも50を過ぎて定年も近い。その上、職人気質の個人主義で、人を束ねて職場を改革していくという意識はあまり感じられなかった。
自分なら、もともと総務なので組織についての理解もあるだろう。現場での技術や経験はまだまだだが、それは職人たちにサポートしてもらえばいい、
そう判断したのだと思う。
リーダー内定の話は正直嬉しかった。班長はともかく、リーダーはいつか回ってくるだろうと思っていた。ただ、こんなに早くその機会が訪れるとは思っていなかった。
なぜなら、リーダーというのは現場ではとても大きな存在だからだ。
リーダーになると、帽子に白い線が一本つく。これを「シロセンを巻く」といった。
リーダーの言うことには逆らえない。体育会系というか、厳格なタテ社会で、アタマを張っているリーダーたちはいずれも猛者ばかりだった。
そういう意味でも、自分のキャラクターじゃちょっと、誰も言うこと聞いてくれないんじゃ・・という不安はないでもなかった。
結局、断る理由も見つからないまま、
数日後の朝礼で、ぼくは班長からシロセンのついた帽子を受け取った。
みんなは温かく迎えてくれた、ように見えた。