8「作業服と安全靴が支給された」
新しいロッカーは、工場の片隅にあった。新しいといってもロッカー自体がピカピカなわけじゃない。これから使うことになる、という意味の、新しい、だ。
薄暗く、汗と油と混じった何とも言えないにおい。細長いロッカーが並んでいて、その多くは凹んでいる。これまで総務という立場で何人もの派遣労働者にロッカーを準備し、作業服を支給してきた。絶対に自分には関係ないと思っていた世界。
これからこの更衣室で着替えるのか・・
与えられた作業着に着替える。今でこそポロシャツスタイルを採用しているが、当時は開襟シャツスタイルの、所謂作業着っぽい作業着だった。作業帽をかぶり、安全靴を履く。
屈辱感の反面、すっきりもしたような、不思議な気分だった。
現場を歩いて、指定された持ち場へ向かった。従業員が不思議そうにこちらをみている。直接聞いてくるものもいた。
どうしたの?なんで作業服着てんのよ?まさか今日から現場か?がんばれよ!
この気さくさには救われた。
いや、総務クビで。これから三岩班だから。よろしくお願いします。
無理に笑顔を作り、冗談めかして返事をする。
久しぶりに、すみません、以外の言葉が言えた。
どんな仕事をすることになるのだろう、不安と期待のなか、班長を待つことにした。