25「自分のスタイル」
自分の職場の運営について考え始めると、ほぼ必然的にじゃあ自分はどうなんだ、ということになる。
他人に指導できるほど自分はできているのか、いろんな人がいろんな強みを持って作業に取り組んでいるのに、自分の強みと言えるものはなにかあるのか、そう考えるようになっていった。
現場でリーダーとして頭を張る以上は全てが完璧に出来ないといけない。
これは高梨班長の考えというだけでなく、実際にそういうリーダーでないとメンバーがついてこないからだ。
柔道で国体に出ました、高校野球で県大会に出ました、そういう人間がごろごろいた。
厳しい環境で鍛えられた人間はどの世界でも頑張ることが出来る。
そんな中で、自分はどう生きていくのか、を考えざるを得なかった。
自分の場合はそもそも事務職だったこともあるし、運動をやっていたわけでもない。
体力には全然自信がなかった。体力がないからこそ、総務でついていけず、クビになったともいえる。実際、現場に来た当初、全くついていけず、毎晩8時には寝ていたほどだ。
そこでまず、体力を補うために、ランニングをすることにした。初めは帰宅後に10分だけ。それだけでも汗だくになり、それ以上は無理だった。そのうち、15分、20分、と走れるようになり、そのうちほぼ毎日30分から1時間くらい走るようになった。後にフルマラソンにも挑戦するようになるのだが、この習慣は大きかった。
次にパワー。仕事に必要な筋肉は仕事でついたのであまり気にしなかった。あれだけ毎日重い鉄の塊を運んでいれば、何もしなくても腕はそれなりに太くなる。
あとはリーダーとしての強みを考えることにした。
この職場のメンバーは自己表現があまりうまくない。ただ、自分ならそれをくみ取って表現してあげることもできる。そういった人と人との橋渡しなどのコミュニケーション能力はこの職場においては強みになるはずだと考えた。
また、ぼくは昔から読書が好きだったこともあり、文章に関することが好きで、そのせいで人に説明したりすることに抵抗がなかった。
他のメンバーは他人に説明したりするのがあまり得意でなく、うまく引き継ぎや新人の教育ができなかったりしたのだが、(あいつの言ってることがよくわかんねえからおれやれねえっす、みたいなことがよくあった)自分が説明すると分かってくれた。
例えば、この人には、細かく丁寧に説明してあげないと伝わらない、とか、この人は概要だけでも理解できるから大丈夫、とか、この人は実施の背景まで理解させないと動いてくれない、とかいろんなことを考えながら伝えることで、みんなが納得感を感じたうえで、それぞれの職務を行えるようにしていった。
余談だが、この納得感、というのが結構大事だった。
あなたはこういう特技があるから、こういう仕事をやってほしい、とか、今回はこういう理由で、ちょっとごめんね、とかきちんと相手にわかるように話してあげると、すこし無理なことでも受け入れてくれることが多かった。
多くの人は、自分は大事にされていない、自分は見てもらえてない、と思っているようで、
きちんと見ているよ、というメッセージを送ってあげると安心するのかもしれない。
これは叱るときにも有効で、おいバレてるぞ、見てるんだからな、というメッセージを
タイミングよく伝えるとだいたいすぐに収まった。
そうやって、自分の場合はコミュニケーション力を強みとして徐々にスタイルを確立していった。