9「三岩班長」
製造課は製造部長、製造課長、までがホワイトカラーで、その下が組長、班長、リーダーの現業職となっている。ホワイトカラーは大卒以上で構成されていて、現場は中卒、高卒、派遣社員、期間工、だ。
現場におりる前は(ホワイトカラーが現業職に配置転換されることをおりる、と言った)課長や部長とやり取りすることが多く、班長の存在を意識することはなかった。現場の作業員とどう違うんだろう、くらいの認識だった。
その班長が、いまや上司だ。
三岩です、よろしく。
班長がやってきた。挨拶もそこそこに仕事場へ向かい、軍手とグローブを支給され、今日の作業の指示を受けた。
驚いたのは、班長の下には数十人の部下がいて、強力な権限があるのだ。班長がやれといえばやらなければならない。トラブルがあればすぐに班長に報告する。仕事は班長が教える。
数年後を見据えた生産計画に基づく設備と人員の計画の検討及び日々の生産の計画と人員管理、メンテナンスなどの整備や、作業者として生産そのものに関わることもある。
仕事は多岐にわたり、責任も重い。あとで知ったが、年収も中小企業なら課長や部長クラスに相当する。
事務職にはなかなか数十人も部下を持つ人はいない。課長クラスで数人、部長クラスでも十数人だろう。すごい人だったんだなと思った。
幸いにも、三岩班長は、とても論理的で穏やかな人だったので、説明もわかりやすく、助かった。
初日の作業はなにをしたか全く覚えていない。おそらく、部品を組み立てたりしたのだろう。
慣れない安全靴で一日立ち仕事をしたせいで、足が痛くなり、会社から最寄り駅まで足を引きずって帰ったこと、疲れすぎてその晩は夜8時には寝てしまったことだけを覚えている。